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かいとく丸 2009年2月8日泊

数年前、超愛読誌「四季の味」でその存在を知ってから、ずっと憧れていた宿。
遠いのと、
民宿というのにためらっていましたが、今回、ついに敢行!


スタンダードコース、1泊2食付で1万円(税抜)ぽっきり!

という価格、それに対してあのお料理はほんとに驚き。

でもそれ以上に驚き、かつ考えさせられたことがあり
追記に書いてみました…ある意味、目からウロコ。













住所 静岡県賀茂郡松崎町岩地363
電話 0558-45-0365
客室数
HP http://www.fsinet.or.jp/~walden3/iwachi/iwachi.html
※宿のHPは無し。上記は宿のファンクラブのHPです。
食事場所 朝夕:ダイニング
連泊スコア

     
連泊を想定した宿ではありません。
ひとり泊まり:OK
子供連れ:OK


実録! 宿に着くまで
今回は、伊豆方面としては今までで一番長い旅程でした…

しかも民宿なので、宿から出迎えの車が来るわけも無く、地図を見て手探り…秘湯探検みたいな旅…珍しかったので、たどり着くまでを詳しくルポしてみます。

横浜 11:42発の JR/踊り子 113号で出発。

ダンナの駅弁は崎陽軒の「おべんとう春」。









「踊り子」の車窓はとても海がきれいだったです♪

約2時間半の旅…
最近、熱海とか乗車時間が新幹線で一駅みたいなとこが多かったので、
とんでもなく長く感じる…
でもじつはそれは、まだ始まりでしかなかったのでした。

伊豆急下田に 14:14

じつは伊豆急下田で降りるのは初めて。



天井が高くてきれいで売店がいっぱいあって活気がある駅。



そんな中、ものすごーーーく気になったのがこの「金目おやき」



下田駅 を14:40に出る東海バス(堂ヶ島行き)に乗り込み、
15:30に「松崎」というバス停で下車、
同じターミナルから15:35に出ている「雲見入谷行き」のバスに乗り込み、
岩地温泉に 15:46着。




伊豆急下田駅から、「松崎」までバスに。



松崎~岩地温泉間のバスは、
とっても海がきれいに見える絶景続きです。



右側の席に座ることをお勧めします。

1時間、バスに乗るってつらい~(でも翌日のルートでは2時間以上も…)



家を出てから5時間後、やっと最寄り駅に着いた…

しかし、ダンナが持ってたのがこんな地図。



目印が全然ないよ・・・
「たぶん、この階段を下りるんじゃないかな」とダンナ。




バス停向かいの階段をずんずん下りて行くダンナ。



あのー、どんどん道が細くなってますが。



あ、宿の駐車場発見! 



道端の網などに、「漁師の町なんだなー。」ってしみじみする余裕も無く…



あったーー。この看板がないと、100%わかりません…




やっとついたーー
普通の家と見分けがつかず、通り過ぎるとこだったよ・・・




喫煙スペースと思われる縁側…なんか懐かしい。

しかし、玄関で大声で呼んでも、人の気配なし。
途方にくれてふと見ると、呼び出しベルが!



かなりでかい音で、びびった。










館内はこんなです

民宿というので、インテリアにはまったく期待していなかったのですが、一階のパブリック・スペースは改築して、すごく素敵な感じになっています。




入ってすぐのところにある読書コーナー。
雑然とした置きかた&ラインナップですが、飾りではなく読み込んでいる感があります。



読書室、ダイニング、貸しきり風呂などのパブリックスペースが1階、客室は2階になっています。「民宿」というイメージよりはうんとうんと小さな保養施設くらいの感じ。

案内してくれたのは、たぶん、料理を担当する名物女将のだんなさん。飄々として、設備の足りなさを卑下するでもなく、宿のやり方をおしつけるでもなく、なんか味があって好きだった。

例えばトイレの説明も
「2階に男女共用のがあるけど、1階の男女別々のほうが感じいいよ」

「感じいい」って(笑)


なんか、お料理担当の奥様とお母様が全開で働いてるのに、わりといつも所在なさげで、縁側でタバコ吸いながらぼーっとしてるのを私に見られて、こそこそ恥ずかしそうに庭をうろうろしたり…

女将さんが迫力系だけに、押されてるのがわかりなんかかわいくって。




読書室から玄関を見たところ。

このベンチは、靴を脱いだりはいたりするのにとっても便利で、ダンナが感心してました。

奥の障子を開けると、ダイニングスペースです。



ダイニングスペースの向こうがキッチン。
忙しく働いている雰囲気が伝わってきます。



客室へと続く廊下。



途中、共用の洗面スペースがあります。

そう、部屋にはトイレはもちろん、洗面所もありません。念のために歯磨き用のコップを持ってきて正解でした。




貸しきり風呂前のスペース。
ほっとする感じです。

貸しきり風呂は2箇所あり、3組に対して2箇所なので、滞在中、一度もかちあうことはありませんでした(食事前は集中しやすいと聞いたので、早めに入ったせいもあるかも)



左右対称でほぼ同じつくりです。
日当たりは悪いですが、窓が大きいので開放感があり、そのほの暗さがかえってしみじみ落ち着く感じ。




脱衣所も広々として使いやすかったです。



すごい勢いでお湯が出ていました。
なめるとしょっぱいお湯。海の近くだからでしょうか…

お湯はほんとに気持ちよかった。
ただ、洗い場のカランがどちらも調子悪く、水もお湯も出なかったり、お湯の温度がなかなかあがらなかったりしたのが気になりました。




トイレは、2階に男女共用が一箇所、1階に男女別々のがあります。どれもシャワートイレで清潔。

ただ私は「共用」が気になったのでもっぱら1階のトイレを使っていましたが、高価格帯の旅館と変わりのないお洒落なトイレでした。





洗面スペースの木製のペーパーボックスがいい感じ。



京都の匂い袋がさりげなく。











お部屋は思ったより広くてきれいで快適


前は普通にいっぱい収容してたのでそうが、お料理の質を維持するために3組限定にしたようで、使ってないお部屋がかなりある感じ。

私たちの部屋も二間続きで、それぞれの部屋に入り口がある不思議なつくり。二部屋の真ん中をとっぱらったんでしょうねえ。



でもって壁はかなり薄いと思われるのに静かだったのは、私たちの両側の部屋に人を入れていなかったためのよう。




ホットカーペットです。

掃除がいきとどいていて、シーツも糊がきいていてパリパリでした。



窓からの眺めはこんな感じ。





「アメニティは手ぬぐい一本」という噂でしたが、浴衣も丹前もありました。
バスタオルは家から持参した。



普通だけどなんかレトロかわいいお茶セットです。




お風呂あがりに、海まで散歩(徒歩1分)
お風呂あがり、晩御飯(5時半)まで時間があったので、海に行ってみようかということに。

たまたま玄関で暇そうにうろうろしてたお父さんに
「海までどれくらいですか?」
と聞いたらニヤッと笑って
「4~50メートル!」(得意そう)

で、心配そうに
「海に行くんだったら、丹前を羽織って行ったほうがいいよ」

いや、さすがにこの季節、浴衣じゃ行きませんから…。
もーお父さんったら、キュートすぎる!

ダンナの意見
「下り坂をずんずん行けば海に着くはず」

そのことばを信じて、出発。





ずんずん歩いていくと…



防波堤があって、その向こうに海が!






近くの民宿、みんな開店休業っぽかったから、たぶんこのへんはプライベートビーチ感覚なのでは。




遠浅なので、子供が泳いでも安心そう。




「貸しロッカー、申し込みは漁協まで」ってなんか商売気なさそでいい。







宿にもどったら、門の前にシャワーがあるのを発見。
海で泳いで、水着のまま戻ってここで砂を落とせるというわけですね。


いよいよご飯です♪
いよいよ楽しみにしてた食事です♪



前菜 自家製リコッタチーズと蕗味噌

ものすごく淡白な味で、ほんとお豆腐みたい。
ほろ苦い蕗味噌とあわせるとちょうどいい感じです。


がつんと食べる気合をこめて、ワインを注文。




蛸のカルパッチョ・サラダ

蛸がやわらかくておいしいのはもちろん、ドレッシングが
超おいしかったの。粒マスタードたっぷりでお醤油と
ガーリックも入ってると見た。


 
サザエのガーリックバター焼き。
ああ、「モーモー喰空」の牡蠣の胡椒バター焼きといい、
バターってなんで貝類とこんなに合うんだろ。

この宿の常連の人は、この殻を残しておいて、
後に来る伊勢海老料理についてくるフランスパンで
殻に残ったソースをつけて食べるそうです。


でも後に述べるような深い事情で、
私たちはまだとてもそんな域に達することはできません。




オプションでお願いした伊勢海老のお刺身

まだ触覚が少し動いている新鮮さ。
お父さんが
「伊勢海老はつかまるとこの触覚を自分でもいで逃げるんだよ。
で、後からまた生えてくるの」

と豆知識と共に出してくれました。甘くてぷりぷりで感動のおいしさです。。



ヒラメの刺身
厚づくりで歯ごたえがあり、かつ淡白な甘さがこたえられません。




同じくオプションの鮑のお刺身
 じつは事前情報で、調理法を聞いてくれると思ってたので
炒め物にしてもらおうと思ってた…
鮑のお刺身はあんまり得意ではないので、ややショック
なーんて、こんな立派なお刺身を前にそんなことを言ったら
ばちがあたりそうですが…くううう。



エンガワとツノワタのところだけ焼いてくれた。
味がぎゅっと詰まってて旨かった。



宿名物の「伊勢海老のアメリケーヌソース
これがすんごく食べたかったんだよう。

もう、期待を100%裏切らないおいしさ。
ソースはフランスパンにつけて食べるんですが、
非情なことになんでだか、このフランスパンが
たった一切れしかもらえない掟なんですよう。

ダンナはすごく周到に計算してソースを食べきったけど、
私はとりきれなかった…



給仕係のおとうさんが
「このちっちゃなパンでよく全部食べれたね」
と感心。
お父さん、わかってるんだったらもっとパンちょうだい…

どこかのブログで読んだのだが、
数年前までここは、宿泊の際にフランスパンを持参するのが掟だったとか。
フランスパンが入手困難な土地柄ゆえの苦肉の策だったのでしょうねえ…


ちゅうか、言ってくれれば私たちだって持って来たよ!
で、このソースとさっきのサザエのソースとフランスパン1本で
ワイン1本楽に空けられたよ!



もうひとつの名物、ご高齢のおばあさんが焼いてくださる
鯛の塩焼き」。
これだけは女将さんにも焼き方を教えていないとのことで、
ある人のブログでは「何万尾も焼いてきて初めて到達する
焼き上がり」と絶賛していて、すごく食べたかったもの。

先にひとくち食べたダンナが「何これ、ふわっふわ!」
そう、外がぱりっと焼けているのに
中はしっとりジューシーかつふっくらふわふわ。
このふわふわ感、焼き魚では初体験かも。

この大きさの鯛だからこそのジューシーさかもしれませんが、
逆にこの大きさの魚をこれだけ完璧に火を入れるって、
すごいワザだと思いました。
おばあちゃん、グッジョブ!


↑完食しました。

ここでご飯と漬物、お味噌汁が。





味噌汁は先ほどの鯛の刺身のアラでとった汁。

鯛とごはん、いっしょに食べるとしみじみおいしいです…
ごはんの炊きあがりもお見事。



漬物も文句なし。女将さんいわく
「息子の嫁が京都出身なので、京都から送ってもらってる」そうです。


デザートは甘夏のゼリー
ほろ苦くて、大人のデザートって感じです。

満腹だーーーー
だけどまだ7時前という驚愕の事実…
 
民宿だからあとは寝るしかない…どうしよう、と思ったら、
ダンナは部屋に戻った瞬間に爆睡してた。
私は残ったワインをワインクーラーごと部屋に持ち帰り、
ちびちび飲みながら
持っていったミステリを読んでいるうちにいつしかぐーー









朝ごはんもよかったです!




お米は自家米だそう。
朝のサラダのドレッシングは昨夜と違って、またおいしかった!

(左)家と同じ、リンゴと人参のジュースが飲めてうれしかったです。
(中)昨夜の伊勢海老のお刺身の頭がお味噌汁に。
(右)温泉卵にも、柚子の皮が。このへんがいいですね。。

お漬物も昨夜と違うものが出てきて、そのへんに心意気を感じます。



そして、座布団がなぜかテーブルの下に落ちていて、なんでだろう?
と思ったらお父さんが
「座布団、暖めておきました」

うーーん、定価1万円の宿でこんなに気配りしてもらっていいのだろうか…


*帰りに、女将さんに「ご主人のサービスがとっても味わい深くてよかった」と伝えたところ

「そんなこと言った人、初めて。よく『ダイニングに出すな』とはいわれるんですけど」
お父さん、がんばれ。

*ワインがボトル4千円、税金などが加算され、ふたりで3万7千円ちょっと。
今思えば、伊勢海老もアワビもなくてもちっとも不満じゃなかった(私たちは)。
ワインもなくて大丈夫だったかなー
ということは、ふたりで2万3千円くらいでも内容的にはまったくOKだった。

考えてみると、そらおそろしいコスパ。



ダイニングのお茶セットも素敵です。

and

再訪したいか、というと微妙…

ここはメニューが定番不動。
このメニューのみで勝負している志は素晴らしいと思うけど、
私たちはもっといろんなものを食べてみたいタイプなので…、

ダンナははっきりと

「コストパフォーマンスでいったら、
温泉はないけど同じ価格帯の
「グリーンヒルズ草庵」のほうがいい」

ということで、来月、グリーンヒルズ草庵の予約をとることに。



<注意>


鍵がなく、セイフティボックスもありません(鍵は内側からしかかからない。貴重品は帳場に預ける仕組み)

*夏は、子供連れの海水浴客が主になるので、盛り付けや器が違うそうです。




そして私たちの帰りのコース。

岩地温泉 9:35
↓ (東海バス・松崎行き)
松崎 9:46

松崎 9:50
↓ (東海バス・特急三島行き)
三島 11:47

三島 12:22
↓ (JR新幹線/こだま 544号)
新横浜 12:57


なんと2時間もバスに乗りました
…そしてダンナは、電車だったら何時間
乗ってても幸せなばっかりだけど、バスはそんなに乗りたくないタイプだと
判明…



*バス運行に関するダンナの意見

- 東海バスの時刻表通り運行にびっくりした.
1~2分の誤差.

- 後続車がいて,退避エリアがあると,適宜先に行かせるようにしていたの
が印象的だったわ.
どのバスでもそうだったので,会社の指導なんだろうな~.




追記…あとから考えて気がついたこと。

ダンナがこの宿に愛着を感じなかった理由…それがずっと気になっていた。
ふと気がついたのだが、それは
この宿が持っている、ある種の権威の押し付けのようなものに、
ダンナはアレルギー反応を起こしたのではないか
。ということだ

権威、といっても、帝国ホテルとか、そういう権威ではない。
なんといってもトイレ共用、鍵もない一泊二食1万円の民宿だ。
権威っておおげさな、と思うかもしれない。

でも民宿価格で、たった一種類のコースで勝負しているいさぎよさ、
志の高さがあるからこそ
伝説の宿となり、その伝説の料理をありがたく押しいただく客だけが集まるわけだ。

私ははっきり言って、そういう
「伝説」にめちゃめちゃ毒されやすい人間だ(つまりミーハー)。
正直いうと、フランスパンを一切れしか出してくれない、
その融通のきかなさを嘆きながら、どこかで自分もその伝説の末尾に連なったような
気分に酔っていたかもしれない。

だけど冷静に考えたら、どうしたってあの量のソースを、
あんなパン一切れでぬぐいきるのは物理的に無理だし
親切さが欠けている。あたりまえの感覚なら。

そして、「パンのおかわりください」と言う
普通の一言を言うことが許されない
あの雰囲気、あの魔法は、
カリスマ性満点の神々しいほどの迫力のある女将さん、
鯛を焼く神様みたいなお祖母さん、
そのふたりのつくる神話じみたオーラのせい。
あのダイニングにいるのは信者で、あの二人は教祖。
客はファンで、あの二人はスター。


だから、パンのおねだりなんてとんでもないわけだ。
これが権威でなくてなんだろう。

そしてダンナは、その種の「権威の押し付け」に無条件で
アレルギーを起こすタイプなんだ。


客のほうが宿に媚びている。
そういう不健全さを敏感に感じ取ったのだろう。

要するにあのダイニングには、
サービスする側とされる側ののびやかなコミュニケーションがないのだ
(あのお父さんの、不器用な親切さにあふれた配膳以外は)

チェックアウトの時、私が女将さんに、アワビのメニューを聞いてもらえなかったことの
不満を遠まわしに伝えたら
「私もアワビは火を通したほうが好きなんですよ。
刺身は固いでしょ」
とあっさり言った。

「そうですか。じゃ予約の時に伝えればよかったですね」
と私は言ったが、初めての客はそんな選択肢があることは、
普通は宿から言われなければわかるはずもない。
またしても私は、あの女将のオーラの前に媚びてしまったのだ。

女将はあやまるでもなく、あいかわらず堂々としてかっこよく、そんな私に
何もいわずうなづいただけだった。

ということのおかしさに、二日たって気がついた私は本当にその場の雰囲気に流されやすい
人間なのだなあと思う…

そしてダンナの感じた違和感を察知しなかったら、きっと今でも
気がつかなかったような気がする。

さらに言うなら、あの不自由さを楽しみたい人たちにとっては
あそこは最高の宿だし、あれでいいのだと思う。
水を得た魚、サドを得たマゾ、ということばもあるし、
お互いの求めているもの、与えたいものが一致しているのが
幸せな宿と客の関係なわけだから。











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